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出力制御とは?太陽光発電などの出力抑制の仕組みや見通しを解説

太陽光発電などの再生可能エネルギーが急速に普及する中、電力の安定供給のために行われる「出力制御」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。
本記事では、出力制御の基本的な仕組みや必要性、実施される優先順位から、3つの主要ルール、各電力会社による運用の違い、そして今後に向けての取り組みまで詳しく解説します。
特に、再エネ発電事業者の方々にとって重要な制度の詳細や対応方法を、最新の動向を踏まえてわかりやすく説明します。

出力制御(出力抑制)とは

出力制御とは、電力の需給バランスや送電線の容量を維持するために、発電量を調整することを指します。電力は大量に貯めておくことはできないため、需要と供給が常に同じ(同時同量)になるように調整する必要があり、その手段のひとつが出力制御です。

出力制御が起こる要因としては、「需給バランスによるもの」と「送電線の容量によるもの」の2種類があります。「需給バランスによる出力制御」は、発電量が需要量を上回り電力が余った場合に、電力の需要と供給のバランスを保つために電力会社が発電事業者に対して一時的に発電量を抑制するよう要請するものです。一方の「送電線の容量による出力制御」は、送電線や変圧器に流せる電力量の上限を超過しそうな場合に実施されるものです。

また、詳細は後述しますが、近年の再エネの出力制御量は増加傾向にあります。その大きな要因のひとつが、再エネの拡大です。電力の需要量に大きな変化はないものの、再エネの導入量が年々拡大していることから、出力制御せざるを得ないのが現状なのです。

本記事では主に、再エネの導入拡大に伴って重要性が増している「需給バランスによる出力制御」について詳しく解説します。

出力制御が必要となっている背景

出力制御が必要な理由は、需給バランスを常に維持することが電力の安定供給に不可欠だからです。
需給バランスが崩れると電圧や周波数に乱れが生じ、電力系統の安定性が損なわれます。その結果、発電機の故障や系統全体への悪影響を防ぐために安全装置が作動して発電所が停止します。しかし、それでも需給バランスを保てないと最終的には大規模停電につながってしまいます。

このような事態を防ぐために、電力会社は需要に合わせて供給量を調整する必要があります。近年、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が進んだことにより、発電量が需要量を大きく上回る時間帯が発生するようになりました。特に春や秋など、気温が穏やかで電力需要が少ない時期に、太陽光発電などの発電量が大きくなると、需給バランスを保つために出力制御が必要になる可能性があります。

出力制御が行われる順番

出力制御には、「優先給電ルール」という、出力制御を行う優先順位が以下のとおり定められています。

【出力制御の優先順位】

  1. 火力(石油、ガス、石炭)の出力制御、揚水・蓄電池の活用
  2. 他地域への送電(連系線)
  3. バイオマスの出力制御
  4. 太陽光、風力の出力制御
  5. 長期固定電源(水力、原子力、地熱)の出力制御

最初に、出力調整が比較的容易な火力発電(石油、ガス、石炭)の出力が抑制され、揚水発電で水を汲み上げたり、蓄電池に電気を貯めたりして余剰電力を調整します。
次に、地域間連系線を使って他地域への送電が行われ、それでも余剰が解消されない場合は、バイオマス発電の出力が制御されます。これらの対策を講じても需給バランスが取れない場合に、太陽光発電や風力発電の出力制御が実施されます。

最後に制御対象となるのは、水力、原子力、地熱などの長期固定電源(ベース電源)です。これらの電源は、出力を短時間で調整することが技術的に難しく、一度出力を下げると回復に時間がかかるため、最後の手段として位置づけられています。

このルールからわかるとおり、太陽光発電や風力発電は比較的優先順位が低く設定されています。つまり、他の手段で需給バランスを調整できない場合にのみ、出力制御の対象となるのです。

出力制御の3つのルール

ここからは、再エネの中でも最も身近な太陽光発電を中心に解説していきます。太陽光発電の出力制御には、「旧ルール(30日ルール)」「新ルール(360時間ルール)」「無制限無補償ルール(指定ルール)」の3つのルールが存在します。2015年1月のFIT制度改正に伴い、出力制御の方法が大きく変更され、従来の30日単位での制御から、より細かい時間単位での制御が可能になりました。

なお、2025年2月現在、太陽光発電の新規接続案件は、原則として「無制限無補償ルール(指定ルール)」が適用されます。他のルールと異なり、出力制御が行われる時間に上限がなく、また出力制御を行っている間の収入も補償されないため、発電収入の不確実性が高まることから、発電事業者にとっては一定のリスクとなるルールとも言えるでしょう。

ルール概要
旧ルール(30日ルール)年間30日は無補償での出力制御に応じる義務があり、上限を超えた出力制御は補償される
新ルール(360時間ルール)年間360時間を上限として、時間単位できめ細かい出力制御が可能
無制限無補償ルール(指定ルール)出力制御の時間に上限がなく、また制御に対する補償もない

それぞれのルールは、発電所の規模や電力会社への接続申込時期によって適用範囲が異なります。再エネの導入拡大に伴い、2021年4月以降は全エリアで無制限無補償ルールが適用されるようになっています。

旧ルール(30日ルール)

旧ルールは、FIT制度の初期に設定された出力制御ルールで、年間30日を上限として無補償での出力制御に応じることが義務付けられています。当初は、2015年1月25日以前に接続申し込みを行った500kW以上の太陽光発電設備が対象でしたが、2022年4月から、2015年1月25日以前に接続申し込みを行った500kW未満の設備にも旧ルールの適用範囲が拡大されました。

このルールの特徴は、1日のうち1時間でも出力制御が行われれば1日としてカウントされることです。そのため、実際の制御時間が短くても、年間30日の上限に達した後は補償の対象となります。発電事業者にとっては事業収益の予見性が高く、比較的有利なルールといえます。

新ルール(360時間ルール)

新ルールは、2015年1月26日以降の接続申込案件に適用される制度で、年間360時間を上限として無補償での出力制御を受け入れることが条件となります。旧ルールが日単位だったのに対し、新ルールでは時間単位で制御時間をカウントする点が大きな特徴です。

これにより、より細かい需給調整が可能になり、系統運用の効率化が図られました。また、太陽光発電の導入拡大に対応するため、500kW未満の中小規模の設備も対象となっています。

無制限無補償ルール(指定ルール)

無制限無補償ルールは、もともとは「指定ルール」とも呼ばれており、国が指定した特定の電力会社の管轄内で限定して適用されていました。しかし、再エネの導入が全国的に進んだことを受け、2021年4月以降は全エリアに適用されることになりました。

このルールでは、出力制御の時間に上限がなく、また制御に対する補償もありません。現在は原則としてすべての新規接続案件がこのルールでの接続となるため、事業計画を立てる際には出力制御のリスクを十分に考慮する必要があります。

出力制御に関わるその他のルール変更

再エネの導入拡大に伴い、出力制御に関するルールも進化を続けています。特に重要な変更として、2015年1月以降の出力制御機器導入の義務化や、500kW未満の太陽光発電設備への対象範囲拡大があります。これらの変更は、より効率的な電力系統の運用と、再エネのさらなる導入促進を目指して実施されました。

また、優先給電ルールについても変更が予定されています。先にも触れていますが、現在の出力制御の優先順位は「バイオマス→太陽光・風力」となっており、そこにFIT電源とFIP電源の区別はありません。しかし、FIT電源とFIP電源の需給バランスの公平性を確保するため、早ければ2026年度中から、出力制御の順番が「バイオマス(FIT電源→FIP電源)→太陽光・風力(FIT電源・FIP電源)」の順に変更される予定です。

出力制御機器導入の義務化

2015年1月26日以降に系統連系した発電設備に対して、出力制御機器の設置が義務付けられました

この義務化により、電力会社はさらに柔軟かつ効率的に出力制御を実施できるようになりました。なお、出力制御機器の設置にかかる費用は発電事業者の負担となります。

出力制御の対象範囲拡大

先にも触れたとおり、当初、出力制御の対象は500kW以上の大規模な太陽光発電設備に限られていましたが、再エネの導入が進むにつれて、より小規模な設備も対象となりました。この拡大は、事業者間の公平性確保と新規投資の予見性向上を目的としています。
特に旧ルールが適用されている500kW未満の太陽光発電事業者を出力制御の実施対象に含めることで、既存事業者や新規連系事業者の出力制御日数が低減され、再エネへのさらなる投資にプラスの効果をもたらすことが期待されています。

電力エリアによる出力制御ルールの違い 

出力制御ルールは、電力エリア(管内)ごとに異なっています。例えば、北海道電力管内、東北電力管内、九州電力管内においては、新ルールは適用されません。これに対し、その他の電力会社のエリアでは新ルールが適用されており、その適用開始日もそれぞれ異なります。

出力制御ルールについて、エリアごとの詳しい情報は以下の参考リンクよりご確認ください。

参考:

再エネの出力制御量は増加傾向

再エネの出力制御量は、ここ数年で急速に増加しています。2018年に九州エリアで初めて実施された出力制御は、2022年度には全国6社、2023年度には9社で実施されるまでに拡大しました。具体的な数値を見ると、2018年度は約1億kWhだった制御量が、2022年度には全国で約6億kWhにまで増加しています。

この増加の背景には、再エネの導入量の着実な増加があります。例えば九州エリアでは、2022年度実績で最小需要718万kWに対して、再エネの導入量は1,216万kWと約1.7倍に達しています。また、昨今の電気料金高騰を受けた節電の影響で、電力需要が前年度比3~5%程度減少していることも出力制御量増加の一因となっています。特に春季(3~5月)は需要が少ない一方で太陽光発電の出力が大きくなるため、出力制御率が10%を超えることも珍しくありません。

出力制御量を低減するための取り組み

出力制御を抑制し、再エネの活用を拡大するため、オンライン代理制御の推進や定置用蓄電池の導入、火力発電の最低出力引き下げなど、技術的な対策から制度的な対策まで多面的な取り組みが進められています。再エネを最大限活用するためにも、こうした取り組みが重要になっています。

オンライン代理制御の推進

オンライン代理制御」は、2022年度から導入された新しい制御方式です。そもそも、出力制御における「オンライン」とは発電設備をインターネット経由で遠隔制御できる状態のことで、オンラインで出力制御できる仕組みを持つ事業者を「オンライン制御事業者」と言います。

それに対して「オフライン」とは発電設備を遠隔制御できない状態のことを指し、出力制御を実施するにはオフライン、つまり現地で手動操作する必要があります。出力制御を手動で行う事業者を「オフライン制御事業者」と呼びます。

オンライン代理制御とは、本来であればオフライン制御事業者が行うべき出力制御をオンライン制御事業者が代行する仕組みです。オンライン制御事業者は出力制御を行う代わりに、自身の発電設備に適用されている調達価格による対価をオフライン制御事業者から受け取ります。この仕組みにより、当日の需給状況に応じて柔軟な制御が可能なオンライン制御の活用幅が広がり、出力制御量を大幅に削減できるようになりました。

例えば、九州エリアでオンライン代理制御を導入した場合、現状に比べて再エネ出力制御量全体を2割程度低減する効果が見込まれています。


画像引用:経済産業省「経済的出⼒制御(オンライン代理制御)について」のP.9

定置用蓄電池の導入推進

再エネの拡大に伴う発電量の変動を安定化させるために定置用蓄電池の導入が進んでいます。この定置用蓄電池システムにより、余剰電力を蓄電池に貯蔵し需要の高い時に供給することで、出力のピークカットを実現します。

また、蓄電池はバックアップ電源としても機能し、平時のみならず災害時の活用が可能なため、安定した電力供給の基盤を支えます。こうした仕組みの導入は、再エネ主力電源化を促進する鍵となります。

火力の最低出力の引き下げ

火力発電の最低出力引き下げは再エネの出力制御量を減らすための重要な取り組みの一つで、2024年度中には新設火力発電の最低出力を現行の50%から30%に引き下げることを目指しています。

また、既存の火力発電所に対しても、ガイドライン改定の遡及適用はないものの、基本的に新設と同等の基準の遵守が求められることになりました。特に大規模発電事業者に対しては早急な対応が求められています。

火力発電の出力をより低く抑えることで、再エネの受け入れ可能量が増加します。この取り組みはエリアを越えた広域的な運用も視野に入れており、出力制御が発生していないエリアの火力発電所でも最低出力まで引き下げることで、他エリアからの受電可能量を増やすことが計画されています。

まとめ

再エネの拡大に伴い、電力の安定供給を支えるための出力制御の重要性が高まっています。制度面では、当初の旧ルールから新ルール、そして現在の無制限無補償ルールへと変化し、対象範囲も拡大してきました。

出力制御量は年々増加しており、2023年度には全国で約18億kWhに達しました。再エネの拡大を推進しながら出力制御量を抑制するため、技術・制度の両面から解決策が模索されています。

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Supervisor 監修者
近藤 元博 Motohiro Kondoh 愛知工業大学総合技術研究所 教授

1987年 トヨタ自動車株式会社。プラントエンジニアリング部 生産企画部 総合企画部長。第1トヨタ企画部長 戦略副社長会事務局長 他。国内外の資源、エネルギー、化学物質、環境管理、生産企画、経営企画、事業企画等事業戦略を担当。
2020年 愛知工業大学総合技術研究所 教授。産学連携、地域連携等を通じ、脱炭素社会、資源循環社会の達成に向けて研究開発、教育に従事。経済産業省総合資源エネルギー調査会 脱炭素燃料政策小委員会。カーボンマネジメント小委員会。内閣官房 国土強靱化推進会議 委員 他

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