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TCFDとは?日本企業の事例や賛同すべき理由をわかりやすく解説

世界の機関投資家や金融機関に評価される企業になるには、さまざまな情報公開が必要ですが、その中でも注目されているのが「TCFD提言」です。

企業がTCFD提言に賛同の姿勢を示しているかどうかは、投資先の環境・社会・ガバナンスを評価して投資判断をする「ESG投資家」にとって外せないチェックポイントとなっており、資金を集めたい企業にとって非常に重要な情報公開です。

また、大手企業がサプライチェーン全体に情報公開を求める動きもあり、中小企業にとっても他人事ではありません。

そこで本記事では、TCFDの概要から取り組むメリット、TCFD提言に則った情報開示の方法まで、一連の流れを詳しく解説しますので、参考にしてください。

Supervisor 監修者
新島 啓司 Keiji Nijima 環境コンサルタント

東京工業大学大学院 総合理工学研究科を修了後、約30年間、環境、再生可能エネルギー、ODAコンサルタント会社に勤務。在職中は自治体の環境施策、環境アセスメント、途上国援助業務の環境分野担当、風力や太陽光発電プロジェクトなど幅広い業務に従事。技術士環境部門(環境保全計画)、建設部門(建設環境)の資格を持つ。また、英語能力(TOEIC満点)を生かし、現在は英語講師としても活躍中。

TCFDとは?わかりやすく解説

TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略称であり、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳されます。

TCFDをわかりやすく言うと「企業は気候変動による財務的な影響についての情報を具体的に公開してくださいね、と働きかける国際的な組織」です。

以前から、国際的な投資環境において、「ビジネスにおける気候変動の財務的影響への開示情報が少ない」「開示情報が定型化されておらず比較が困難」などの課題が投資家から指摘されており、企業の情報開示の枠組みを決める必要があるという声が高まっていました。

そこで、2015年にFSB(金融安定理事会)がTCFDを設立し、1年半かけて企業が開示すべき情報を整理しました。それをまとめたものが、2017年6月に公表された最終報告書「TCFD提言」です。

冒頭に述べたように、ESG視点を重視する機関投資家や金融機関に評価されるためには、TCFD提言に則った情報開示を行うことが重要です。

「TCFD提言」に関して企業が対応すべきこと

先述したとおり、2017年6月、TCFDはそれまでの提言を最終的にまとめたレポート「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言 最終報告書(TCFD提言)」を公表しました。

TCFD提言に関して、企業ができることは以下の2点です。

1)TCFD提言への賛同を表明する

TCFDへの賛同表明をする場合、TCFDの公式ウェブサイトから所属組織の情報や個人情報などの賛同に必要な情報を記入して提出します。賛同に必要な情報を提出すると、賛同企業としてTCFDや経済産業省のWEBサイト等に組織名が記載されます。

賛同を表明する段階では、TCFD提言に則った各種開示を行っていなくても大丈夫ですが、現在の開示をTCFD提言に沿って発展させていくことが期待されます。

2)TCFD提言に則った情報開示を行う

自社がESG投資家の目にとまるためには、さらにTCFD提言の基準に沿った情報開示を行うことも必要です。投資家だけではなく、国際的な金融機関が融資判断を行う際にも、この情報開示が融資可否を左右します。

投資家の信頼を得て資金を集めるためには、TCFD提言に則った情報開示は外せないものになっています。その中で、特に重要な「シナリオ分析」について後ほど具体例を上げながら解説しますので、実際に取り組む際の参考にしてください。

日本のTCFD賛同数は世界1位!賛同するメリットは?

経済産業省によれば、2022年9月時点に全世界で3,819の企業・機関がTCFDへの賛同を表明しています。

中でも、日本のTCFD賛同機関・企業数は1,062という世界1位の数字を誇っています。

なぜこんなにも多くの企業がTCFDに賛同しているのでしょうか。大きく2つのメリットが考えられます。

■メリット1:ESG投資家へのアピールにつながる

企業の環境・社会・ガバナンスを評価して投資先を決める「ESG投資家」に評価されるためにはTCFDへの賛同や情報開示が欠かせません。

国連が提唱し、投資にESGの視点を組み入れることを求める「PRI(国連責任投資原則)」というルールがあります。このルールには60か国以上4,000以上の署名機関が参加し、その資産総額は120兆米ドル以上です。(2021年4月時点)

画像引用元:PRI(国連責任投資原則)https://www.unpri.org/download?ac=14736

アメリカの2022年度の国家予算が4.2兆ドル(歳入)とのことなので、ESG投資の規模の大きさには驚かされますよね。

名だたる機関が参加しており、日本を代表する機関投資家である、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年に署名しています。

もともとTCFD提言は、ESG投資家への情報開示が目的でまとめられたものです。そのため、ESG投資家の目にとまるためには、TCFD提言を満たした情報開示を外すことはできません。

ESG投資についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

>ESG投資とは?注目の背景やCSRやSDGsとの違いを解説

■メリット2:気候変動リスクに強い経営になる

経営強化の面でも意味があります。

災害に強い国やコミュニティの構築を推進する「国連防災機関(UNDRR)」によると、1998年~2017年の間の自然災害による経済損失額は世界全体で2兆9,080億ドルに上ります。そのうち気候変動に伴う自然災害による経済損失は2兆2,500億ドルに上っており、その前の20年に比べて150%以上増加しているそうです。
なお、1998年~2017年の自然災害の損失の大きさを国別で見ると日本は3位に位置しています。

気候変動リスクに備えることは、企業経営においても重要になってきています。今の経営戦略を気候変動リスクにも対応できるものにアップデートし、気候変動に強い経営基盤を実現するのにTCFDへの取り組みは有効です。

ここまでTCFD提言の概要を説明してきました。ここからは、TCFD提言に沿った情報開示にこれから取り組んで行く企業の皆さまに向けて、具体的なポイントを解説していきます。

TCFD提言に沿った情報開示のポイント

TCFD提言では、気候変動に関する様々な解説や企業へのガイダンスが記載されています。
その中でもポイントとなる2点を紹介いたします。

企業が抱える主なリスクは「移行リスク」と「物理的リスク」

「企業に影響を与える気候変動のリスク」とはどんなものがあるでしょうか。台風で建物が壊れたり、温暖化で売上が下がる商品があったり…と考え出すときりがないと感じるのではないでしょうか。

TCFDでは、気候変動の影響で企業が抱える主なリスクを大きく「移行リスク」と「物理的リスク」の2つに分類して整理しているので、その分類に沿って自社への影響を検討するのがポイントです。

リスクの分類具体例
移行リスク法や規制に関するリスク炭素税の導入
技術のリスク新技術の開発や利用のコスト
市場のリスク生活者の意識の変化
評判上のリスク温室効果ガス排出量の多い企業への評判悪化
物理的リスク急性リスク突発的な気象事象による資産等への被害
慢性リスク海面上昇等の長期的な気候変動による事業・財務への影響

■移行リスクとは

移行リスクとは、企業や社会全体が気候変動に対応する過程で、法律・制度・技術・市場等が変化し、企業の財務や評判が影響を受けるリスクのことです。

■物理的リスクとは

物理的リスクとは、気候変動による災害等で、直接的または間接的に資産や事業が影響を受けるリスクのことです。

TCFD提言で挙がっている上記のリスクによって、自社の収支報告書や貸借対照表にどのような変化が生じうるか、という観点で調査・分析していくことになります。では、その結果をどのように整理して情報公開すればよいのでしょうか。

情報開示が推奨される4つの項目
「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」

TCFD提言では、前述した「移行リスク」「物理的リスク」が自社の財務に与える影響について、4つのカテゴリーに整理して公開することが推奨されています。

項目開示する内容
ガバナンスどのような体制で検討し、経営に反映しているか
戦略気候関連のリスクや機会と、それによる事業への影響。
複数の気候変動シナリオに対する事業の強靭性の説明(=シナリオ分析
リスク管理気候変動のリスクについて特定、評価、低減、それぞれの方法
指標と目標リスクと機会の評価基準を示し、目標への進捗を評価しているか

この中で最も重要なのが「戦略」の項目で求められている「シナリオ分析」です。なぜなら、ESG投資家が知りたい「投資対象の企業の将来性」を把握できるのが、シナリオ分析だからです。

ここからは、この「シナリオ分析」とその重要性について説明します。

TCFDで重要な「シナリオ分析」とは

それではまずシナリオ分析とはどんな内容なのか、説明します。

シナリオ分析では、複数の気候変動予測と自社の強靭性を説明する

シナリオ分析とは、「将来的に予想される複数の気候変動シナリオ」を考慮し、自社への影響や立てている戦略の確実性、その影響下での事業の継続性などを分析するというものです。

それでは、シナリオ分析の例を見てみましょう。

<シナリオ分析の一例>
飲料メーカーA社の場合

A社では2パターンの温暖化シナリオを想定
(1)2℃上昇するシナリオ(2℃シナリオ)
(2)4℃上昇するシナリオ(4℃シナリオ)

(1)2℃上昇するシナリオ(2℃シナリオ)

脱炭素化のための社会的変化(移行リスク)による事業への影響が大きい

具体的なリスクは…

カーボンプライシング ※ の導入による税負担の上昇

カーボンプライシング:炭素に価格を付けることで、炭素を排出する企業などに行動の変化を促す手法のこと

対応策は…

エネルギーの脱炭素化

  • 再生可能エネルギーへの切り替え
  • 工場敷地内への太陽光発電設備導入

税負担の想定は…

  • 対応策なし:20億円増
  • 対応策あり:12億円増

※上記は一例。2℃シナリオでは移行リスクが大きいと想定されるものの、物理的リスクも生じるため、シナリオ分析では移行リスク・物理的リスク両方の想定が必要

(2)4℃上昇するシナリオ(4℃シナリオ)

気象現象の激甚化など気候変動(物理的リスク)による事業への影響が大きい

↓具体的なリスクは…

気温上昇や水害等による主原料の収穫量減少

  • ホップの収穫量の複数の産地で減少
  • コーヒー豆の収穫量が複数の産地で大幅減少
  • その他、複数の主原料で収穫減のリスクあり

↓対応策は…

  1. ホップのゲノム解析、栽培技術の開発
  2. コーヒー豆農家への技術支援・設備投資を開始
  3. その他の主原料について、来年以降順次活動計画を策定
    2023年:トウモロコシ・大麦・アルコール
    2024年:茶葉・テンサイ
    2025年:乳製品

※上記は一例。4℃シナリオでは物理的リスクが大きいと想定されるものの、移行リスクも生じるため、シナリオ分析では移行リスク・物理的リスク両方の想定が必要

シナリオ分析では、複数のパターンの気候変動シナリオを想定し、自社がどのように対応しようと考えているかを開示します。ESG投資家や金融機関は、その情報から企業の事業継続の強靭性を判断するのです。そのため、TCFD提言に沿った情報開示の中で、シナリオ分析がもっとも重要なのです。

そうはいっても、多くの企業は気候変動に詳しいわけではないので、どのような気候変動が今後起こるかなんて、わからないというのが正直な感想ではないでしょうか。

そこでTCFDでは、シナリオ分析に取り組む企業が気候変動シナリオを選択できるよう、推奨のシナリオを示しています。環境省がまとめた以下の資料に、適用可能なシナリオ群が記載されていますので、シナリオ分析に取り組む際にぜひ参考にしてください。

TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0~(スライド21を参照)

TCFD提言の概要はご理解いただけたでしょうか。

ここからは企業による実際の情報開示を紹介します。自社に近い企業の開示情報を参照して、自社での取り組みをイメージしてみてください。

日本のTCFD賛同企業による情報開示・シナリオ分析の事例

前半でご紹介した通り、日本ではTCFDに賛同している機関数が世界で1番多いため、参考になる事例が豊富です。

この記事では、知名度が高い上場企業3社が行っているシナリオ分析の事例をご紹介します。

企業名取り組み内容
味の素株式会社2019年、TCFD提言に賛同。気候変動が事業に与えるリスク及び機会を評価し、関連情報を積極的に開示している。
シナリオ分析では、グループ全体の全生産拠点を対象に、物理的リスク、移行リスク、機会ごとのシナリオ分析を実施した。

参考:味の素マテリアリティ別活動報告「TCFD提言への賛同」
株式会社商船三井2018年、TCFD提言に賛同。H30年度環境省支援事業にも参加し、シナリオ分析を実施。
2030年代の気温上昇4℃と2℃の2パターンで発生しうるリスクを想定。それぞれのシナリオにおいての燃料や運航についてのリスクを分析した。

参考:TCFD提言に基づく開示 | 環境 | サステナビリティ | 商船三井
KDDI株式会社2021年、TCFD提言に賛同。
「急速に脱炭素社会が実現する2℃未満シナリオ」と「気候変動対策がなされず物理的影響が顕在化する4℃シナリオ」の2つの分析を実施。それぞれの状況下におけるリスクと対策を想定した。

参考:サステナビリティレポート・関連情報 | KDDI株式会社

TCFD提言に対応し投資家・金融機関から評価される企業へ

TCFD提言に沿った気候変動シナリオを情報開示することで、社会的責任を果たし、環境問題に積極的に取り組んでいる企業として投資・融資を受けるきっかけとなりえます。

また、冒頭でお伝えしたとおり、大手企業がサプライチェーン全体に情報開示を求める動きもあり、大企業だけでなく中小企業もTCFD提言に沿った情報開示に積極的に取り組むべきと言えます。

エナリスは脱炭素化の取り組みをサポートします

TCFD提言への対応において、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減に取り組まれる企業が多くいます。

エナリスでは、エネルギーの脱炭素化に貢献する各種サービスをご提供していますので、ご関心のある企業の皆さまは下記サービスをぜひご参照ください。

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また、上記に限らずエネルギーに関するご質問・ご相談がありましたら、下記のお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

KDDIグループのエネルギー総合サービス企業「エナリス」が、エネルギーに関する悩みをサポートします省エネがしたい。脱炭素化を推進したい。エネルギーに関する各種サービスを提供しています。

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