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CDP2024の変更点は?統合質問書や中小企業向け質問書等を解説
近年、世界中で盛んになっている気候変動対策の一環として、CDPの質問書に回答する企業が多くなっています。CDPの質問書は毎年プライム上場企業を中心とした大企業に対して送付されていますが、2024年にはこの質問書の内容が一 […]
電力の需要側(電力ユーザー)が節電や自家発電装置を稼働するなどをして、供給量との電力バランスをとるデマンドレスポンス(DR)。実施することで電力ユーザーは社会貢献できるだけでなく、報酬を受け取れるメリットがあり、実施を検討する企業が増えています。
東京工業大学大学院 総合理工学研究科を修了後、約30年間、環境、再生可能エネルギー、ODAコンサルタント会社に勤務。在職中は自治体の環境施策、環境アセスメント、途上国援助業務の環境分野担当、風力や太陽光発電プロジェクトなど幅広い業務に従事。技術士環境部門(環境保全計画)、建設部門(建設環境)の資格を持つ。また、英語能力(TOEIC満点)を生かし、現在は英語講師としても活躍中。
はじめにデマンドレスポンスとは何なのかを解説しましょう。
電力は貯めることができないため、供給量(発電電力量)と需要量(消費電力量)が常に同量でなければなりません。そこで、これまでは同量にするために発電事業者(供給側)が必要な電力量を予測して発電し、需要量に合わせて供給量を調整してきました。
対して、供給量に合わせて需要量を調整する手法がデマンドレスポンスです。
近年は地球温暖化を防止するために太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及が進みました。太陽光発電や風力発電は基本的に天候などの自然の作用に大きく左右されることから、火力発電のように需要側に合わせた制御ができません。そのため、脱炭素をさらに推進するためには、供給側だけでなく需要側で調整することが重要なのです。
そこで、デマンドレスポンスでは、電力不足が危惧されるときや供給量以上の電力量が必要になると予測されるときに、電力ユーザーが電力会社の要請に応じて系統から供給を受ける電力量(電力購入量)を調整します。
なお、本記事においては、企業が社会貢献しながら報酬を得る方法として検討されることの多い、調整力 ※ 公募への対応としてデマンドレスポンスを説明していきます。
※調整力:電気は常に需要と供給を一致させる必要があり、一致させるための調整に使う電力
では、どのように調整するのでしょうか。デマンドレスポンスの手法には、「下げDR」「上げDR」の2種類があります。
需給ひっ迫の恐れがあるときに、需要側が電力会社からの要請に基づいて電力購入量を削減することをいいます。例えば、工場の生産ラインの稼働を抑制したり、自家発電機を稼働させたりするなどの方法があります。
供給量が需要量を大幅に上回ることが想定される場合、電力会社が需要側に電力消費の増加や蓄電池への充電を要請することです。例えば、日射量の多い日、太陽光発電の発電量が必要な量を超えてしまい電気が無駄になる恐れがあるので蓄電池に充電するなどの方法があります。
2022年3月16日の福島県沖を震源とした最大震度6強の地震の際に、東北や東京電力管内でインフラの被害の影響や気象的な要因により、電力の需給ひっ迫の恐れがありました。政府からも需要削減の要請があり、デマンドレスポンスに取り組む電力ユーザーをはじめ、多くの人や企業が電力購入量の抑制に協力し、大規模停電は免れました。
人々が安心した生活を送るために安定した電力の供給は必要不可欠です。電力ユーザーが自らの意思で未来に向けた社会貢献を実現できる取り組みとして、デマンドレスポンスは社会的な関心、注目度が高まっているのです。
注目の取り組みであるデマンドレスポンスですが、日本では下記のような形で行われています。
デマンドレスポンスの仕組みには下記の2種類があります。
ピーク時など電力需要が増えるときに電気料金を値上げするなどの手法によって電力消費の平滑化を促進していく手法です。
あらかじめ、アグリゲーター等とデマンドレスポンス契約を結んだ電力ユーザーが、電力がひっ迫しそうな時などに、電力会社からの要請に従って節電などを行い、達成することで報酬(インセンティブ)を得る仕組みです。また、インセンティブ型の下げDRはネガワット取引とも呼ばれています。
日本では電気料金型よりもインセンティブ型への取り組みが中心となっており、かつ下げDRがデマンドレスポンスの主な手法として理解されています。
では、実際にどのような流れでデマンドレスポンスを要請され報酬を得ることができるのか、下記の図を見ていきましょう。
デマンドレスポンスは、要請に応じて節電・蓄電などを行い、達成すると報酬を受け取ることができる仕組みであり、電力がひっ迫した際などに一般送配電事業者が節電などの要請を行います。
デマンドレスポンス参加にあたり、電力ユーザーは一般的には一般送配電事業者ではなくアグリゲーター ※ と呼ばれる事業者と契約を行います。節電要請や報酬のやりとりなどは、電力ユーザーとアグリゲーターとの間で行うこととなります。
※電力ユーザーと契約を締結し、蓄電池などのエネルギーリソースを制御する事業者
デマンドレスポンスには、電力ユーザーにさまざまなメリットがあります。
「インセンティブ型」の場合、電力会社の節電要請に応じた量を電力ユーザーが節電すると、契約時に決定された報酬が支払われます。要請がある当日の業務内容によっては節電の達成が難しいケースもありますが、ほとんどの契約者(電力ユーザー)に、報酬を受け取れる可能性があります。
東日本大震災時にBCP ※ 対策で自家発電設備や蓄電池を導入したものの、稼働せずに休眠状態になり、緊急時以外の使い道はないのか頭を悩ませている電力ユーザーは少なくありません。
ですが、インセンティブ型デマンドレスポンスなら、設備を有効活用できるだけでなく、報酬をランニングコストに充てた上で万が一に備えることができます。
これからBCP対策、太陽光発電設備や蓄電池などの分散型電源(DER)導入に取り組もうと考える電力ユーザーにとっても、デマンドレスポンスで報酬を得ることで、設備導入が単なるコストではなくなります。
BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画):災害等の緊急時において企業が損害を最小化し、重要な事業を継続または早期復旧するための計画のこと
デマンドレスポンス契約を締結する際は、アグリゲーターがあらかじめ電力ユーザーの電力使用状況を精査して、平時の電力使用パターン(ベースライン)を算定します。
平時の電力使用状況を改めて見ることで電力ユーザーは自身の電力使用の見直しをすることができ、電力のコスト削減につながります。
平時の使用電力の見直しや、要請時の節電など、具体的に数値として節電目標を提示できるだけでなく、節電におけるメリットが明確になります。そのおかげで自社社員の電力や節電への意識が変わり、コスト削減も期待できます。
万が一、大規模停電となった場合、社会的な損失ははかり知れません。デマンドレスポンスに参加することにより、エネルギーの安定供給や地球温暖化防止などに積極的に関わることができることは社会的な意義があります。
さまざまなメリットがあるデマンドレスポンスですが、参加しようと考えた場合、どのような流れになるのでしょうか。
下記のような設備がある場合、新たな設備を設置することは必須ではありません。なお、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)などが設置されていると、要請を実行しやすくなるなどのメリットがあります。
自家発電設備 | ・ 一定規模のあるもの(500kW級以上など) ・ 常時は停止または低出力運転をしており、余力をDRに活用可能なもの |
蓄電池 | ・ 一定規模のあるもの(10kW級以上など) ・ 非常用電源用途などで導入しており、常用運転していないもの |
電気自動車 | ・ 一定規模のあるもの(30kWh程度以上など) |
蓄熱槽 | ・ 100kW程度以上の蓄熱空調システムなど |
生産ライン | ・ 一定以上の生産能力があり、シフトの変更などにより需要抑制が可能なもの |
空調 | ・ 数十kW以上のもの ・ 高負荷で常用運転しているもの |
インセンティブ型下げDR(ネガワット取引)の大まかな手順例を解説します。
電力ユーザーからアグリゲーターへデマンドレスポンスへの参加を相談します。
電力ユーザーから契約電力、電力使用状況、所有設備(空調・生産設備・自家発電装置・蓄電池)などのデータをアグリゲーターへ提供。それらをもとに、アグリゲーターが抑制可能なkW、要請方法、ベースライン(基準とする平時の電力量)などを検討します。
アグリゲーターと電力ユーザーの間で協議をしながら大まかな報酬金額を設定し、アグリゲーターが電力会社へ入札を行います。
※デマンドレスポンスで比較的参入しやすい調整力公募(電源Ⅰ’)の入札は年1回、9・10月頃に行われます。
落札できると、落札価格をもとに正式に報酬額などが決定し、電力会社とアグリゲーターが契約を締結します。これをもとに電力ユーザーは報酬額などを決めた契約をアグリゲーターと結びます。
以上のように、資料提供などの手間はありますが、試算や電力会社への入札などは、一般的にはアグリゲーターが行います。電力ユーザーの方で節電、蓄電などに対応できる設備があれば初期投資をかけずにデマンドレスポンスに参加できます。
デマンドレスポンスに参加するにあたり、下記のようなことに注意が必要です。
デマンドレスポンスの報酬は設備のkW数などによって決まるため、対応できる設備の規模が小さい場合、得られる報酬は想定した金額に届かないケースがあります。また、デマンドレスポンスの要請(節電要請)に応じることができない場合、得られる報酬が減額されるケースもあります。
ただし、デマンドレスポンスに取り組む企業の多くは、BCP対策など他の目的で導入し平常時は遊休になってしまっている設備を生かすケースがほとんどです。既存の設備の有効活用ができた上で、少なからず収入も入ると考えれば一石二鳥といえるでしょう。中には、BCP対策として所有していた自家発電装置を活用して要請を達成し、年間約5000万円の報酬を得た事例もあります。
生産ラインの調整によって需要抑制を実施する場合は、生産シフトを変更することなどを検討する必要があります。この場合、事前に事業計画の十分な検証が必要となります。
相談から契約締結までの間にはさまざまな手順が必要なだけでなく、現在行われているデマンドレスポンスの報酬価格は年1回の入札によって決定されています。そのため、当初の相談から契約締結まで最低でも数カ月単位の準備時間が必要になります。
自社でデマンドレスポンスへの取り組みを検討している場合、なるべく早い段階でアグリゲーターに相談をすることがスムーズな開始につながります。
現在、大企業で実施されているケースが多いデマンドレスポンスですが、電気自動車など小さなリソースを束ねて制御する取り組みも進められており、今後は中規模企業での実施も期待されています。
企業のデマンドレスポンスへの取り組みは、社会に対する還元やESGの観点でより一般的になっていくと考えられます。
地震などの自然災害、気候変動に伴う再生可能エネルギーへの転換、化石燃料供給の不安定化など、これまで当たり前のように享受してきたエネルギーの安定供給の基盤が揺らぎつつあります。このため、デマンドレスポンスを取り入れることは一歩先のビジネスモデルとしても大いに期待されています。
デマンドレスポンスの社会的意義や、企業にとってのメリットについて解説いたしました。
エナリスでは、需要側のエネルギーリソースを束ね、遠隔で適切に調整する実証実験において業界をリードしてきました。各種電力市場の商用拡大にも貢献し、現在もアグリゲーターとして多くのお客さまにデマンドレスポンスサービスを提供しています。
「BCPのための蓄電池や発電機を導入したが、平常時は眠った設備になっている」「工場の生産ラインは適切なステップを踏めば、稼働時間帯を調整できる可能性がある」このような企業の皆さまは、デマンドレスポンスの豊富な知見を持つエナリスにぜひご相談ください。
エナリスのデマンドレスポンスサービスの詳細はこちらをご覧ください
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