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CDP2024の変更点は?統合質問書や中小企業向け質問書等を解説
近年、世界中で盛んになっている気候変動対策の一環として、CDPの質問書に回答する企業が多くなっています。CDPの質問書は毎年プライム上場企業を中心とした大企業に対して送付されていますが、2024年にはこの質問書の内容が一 […]
大気中への二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」が注目を集めています。さまざまな業界がカーボンニュートラルへの取り組みを進めていますが、建築業界は特に注力している業界の一つです。
この記事では、建築業界の方が知っておくべきカーボンニュートラルの動向や具体的な施策について解説します。
2020年10月に菅義偉元首相が「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。これは2050年までにCO2など温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするという取り組みです。
さらに2020年10月には、政府は2030年において、2013年度の水準から排出量を46%削減することを目指し、さらに50%削減の高みに向けて挑戦を続ける方針を地球温暖化対策計画として閣議決定しました。この方針を受けて2030年度の排出量削減目標や中間目標を公表する企業が増えています。
カーボンニュートラルとよく似ている言葉として「脱炭素」があります。両者の違いを整理しておきましょう。
「脱炭素」とは、省エネ技術や再生可能エネルギー(再エネ)の利用などによってCO2の排出量を減らして最終的にゼロにすることです。
それに対して「カーボンニュートラル」は温室効果ガスを全体としてゼロにするための包括的なアプローチを指し、温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量(植林や森林管理などによる吸収、CO2の固定化・リサイクル処理など)を均衡させて、排出量を実質的にゼロにすることを目指します。ただし、「脱炭素」や「ゼロカーボン」を、CO2排出量を実質的にゼロにする意味で用いることもありますので、あまり大きな違いはありません。
カーボンニュートラルを目指す上でポイントのひとつになるのが、利用する電力の発電方式です。発電方式として化石燃料を用いる火力発電所では石炭や石油、天然ガスなどを燃焼するので、他の発電方式と比べて発電時に大量のCO2を排出します。カーボンニュートラル達成のためには、化石燃料を用いる発電方式による電力から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる電力への切り替えが重要です。
CO2排出削減のためのコストアップなどを“経済活動の足かせ”とネガティブに捉える向きもありますが、カーボンニュートラルの実現にはエネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションの創出への取り組みが必要であり、日本政府は新しい技術の開発や事業の枠組みを広げる機会と捉えています。取り組みを加速する政策として「グリーン成長戦略」が策定されました。
この「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、2021年6月に経済産業省が2050年のカーボンニュートラル達成に向けて策定した産業・エネルギー政策の実行計画です。環境問題の解決と経済成長を両立させ、持続的な発展を目指すため成長が期待される14の重要分野について目標を掲げ、具体的な見通しを示しています。
そのなかで、建築分野は環境負荷の軽減に向けた技術イノベーションが期待される分野のひとつに指定されています。住宅やビルの省エネ化やエネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入による、電気料金の削減やレジリエンスの向上がその骨子です。
グリーン成長戦略の対象となる産業分野は、今後各種の税制優遇や積極的な民間投資を呼び込むための規制緩和が進むことが期待されています。
上記のような方向性が示されたグリーン成長戦略の中で、現状はどうなっているのでしょうか。建築業界が関係する法制度や技術動向を解説します。
まず、前提として建築業界はどれくらいのCO2を排出しているのかを押さえましょう。
環境省の調査 ※1 によると、2021年度の建築業界由来のCO2排出量は800万トンで、全産業の2%に相当します。このうち、施工(建設工事)段階におけるCO2排出量は2022年度で297.1万t-CO2で、対前年度比16.3%減少、2013年度比で27.8%減少しています。※2
施工段階のCO2排出量は主体的に削減に取り組みやすいため、2021年4月に日本建設業連合会が「施工段階におけるCO2排出量を2030年度に2013年度比で40%削減」という目標を定めています。※3
2022年時点では27.8%減少できているため、目標を達成するには8年間で12.2%削減する必要がある状況です。
※1 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について|環境省
※2 2022年度CO2排出量調査報告書|一般社団法人日本建設業連合会
※3 建設業の環境自主行動計画(第7版)|一般社団法人日本建設業連合会
建築業界でカーボンニュートラルを目指すために、現時点で押さえておくべき法制度や政策を4つ紹介します。自社の事業に関連する温室効果ガス排出量の報告が義務付けられる「省エネ法・温対法」だけでなく、新たに建築する建物の省エネルギー性能を基準以上の水準に高める「省エネ基準」や「ZEB」を義務付ける動きがあることにも注意が必要です。
「省エネ法」(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)では、特定の業態で一定規模以上の事業者に対して、企業活動におけるエネルギー使用量を原油換算量で表し、国に年1回報告することが義務づけられています。この定期報告書と併せて、中長期(3〜5年)的な計画を提出する必要があり、エネルギー消費原単位 ※ を平均で年1%以上低減することが目標として求められています。
2023年度から、これまでは定期報告の対象外だった太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー使用量の報告も義務化され、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を促進する方針が明確になりました。
省エネ法と併せて、一定規模以上の事業者には「温対法」(地球温暖化対策の推進に関する法律)により温室効果ガスの排出量を報告することも義務付けられています。施主が報告対象事業者である場合はもちろんですが、後述する「省エネ適合性判定の義務化」や「建物ZEB化の推進」を踏まえると、建築する建物の省エネ化や再エネ利用を計画することも今後は避けて通れません。
※エネルギー消費原単位・・・単位量の製品や額を生産するのに必要な電力・熱(燃料)などエネルギー消費量の総量のこと
参考:環境省 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイト
2017年から、特定の用途において一定規模を超える新築建物に対して、省エネ性能を向上させるための「省エネ適合性判定」(建築物エネルギー消費性能適合性判定)の制度が導入されました。2025年からは建築物の用途や面積による基準が撤廃され、住宅を含むすべての建築物を国が定める「省エネ基準」に適合させる義務が課されるため、対応が急務となっています。
参考:省エネ適合性判定とは | 省エネ適合性判定・届出について | 一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
国が定める省エネ基準を、2030年までにより高度な「ZEB(ゼブ) ※」水準に引き上げる動きがあります。
ZEBは、建物の断熱性能の向上と高効率の省エネルギー設備(空調や換気設備)の導入、そして自家消費型太陽光発電などの再エネ利用により、年間のエネルギー消費量をゼロに近づける概念です。経済産業省と環境省がZEB普及のために補助金を提供しているため、建物の省エネルギー化と再エネ利用がさらに進む見込みです。
※ZEB・・・「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称で、建物で消費する年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指した建物のことです。(住宅の場合は「ZEH(ゼッチ)」といい、「Net Zero Energy House」の略称になります。)
参考:環境省「ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」
国土交通省は、環境分野のグリーン技術を含む施策・プロジェクトを「国土交通グリーンチャレンジ」として取りまとめています。
特に建築分野では、ZEH・ZEBの普及、省エネ改修の促進による住宅及び建築物の省エネ対策の強化、木造建築物の普及拡大などが重視されています。建設施工分野では、ICT施工 ※ の推進や電気・水素を動力源とする革新的建設機械の導入が期待されています。
※ICT施工・・・ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略。建設工事に関連する全てのプロセスにおいて、三次元測量を基としたデータを活用した設計・施工・検査・工事データ保管を行うもの。
参考:国土交通省 グリーン社会の実現に向けた「国土交通グリーンチャレンジ」
建築業界におけるCO2排出のうち、特に施工段階でのCO2排出は、企業が主体的に削減に取り組みやすい分野とされています。ここからは建築工事現場におけるCO2排出削減と、カーボンニュートラルの実現に向けた動きをご紹介します。
国土交通省の資料によれば、2021年の日本国内の発生部門別CO2排出量のうち、建築業を含む「産業部門」の割合は35.1%でした。
この中で建設機械の稼働による排出量に注目すると、産業部門として建設機械は1.7%を占め、カーボンニュートラルに向けての課題のひとつとなっています。その課題を解決する手段の一つとして、施工現場では低炭素かつ低燃費の建設機械の利用が推奨されており、特に公共工事が多い土木工事分野での積極的な採用が進んでいます。
公共工事では、カーボンニュートラルに関する取り組み実績や提案を入札時の総合評価に加点する「カーボンニュートラル対応試行工事」というモデル工事を導入しています。
このモデル工事では、以下のような工事に対し、カーボンニュートラルへの取り組みを積極的に行う企業を優遇しています。
工事用の建機の入れ替えなどには大きな投資コストがかかるため、工事現場でのカーボンニュートラルへの取り組みをためらう企業も多いかもしれません。そこで、工事現場や建築物などで建築業界の企業が取り組みやすい再生可能エネルギーの導入方法をいくつか紹介します。
工事現場のカーボンニュートラルに向けてのひとつの手法は、工事に使用する電力を再エネ由来の電力に切り替えることです。もっとも取り組みやすい手法といえるでしょう。
エナリスでは従来の電力会社から契約を切り替えるだけで実質的に再エネ100%の電力を使用できるメニューをご用意しています。
オフサイトPPA(フィジカル)とは、PPA事業者が所有する太陽光発電設備などで生み出された電力と環境価値を直接的に買い取る仕組みです。再生可能エネルギーを一定年数、固定の価格で供給する契約が多く、建築物に対して長期的な電力調達の見通しが立てやすいという特徴があります。
バーチャルPPAとは、太陽光発電設備などで生み出された再エネ由来の電力から「環境価値」のみを切り離して調達する手法です。通常の電力にこの環境価値を適用することで、実質的に再生可能エネルギーを利用しているとみなすことができます。現在お使いの電力契約を変更する必要がないのがメリットです。
また、オフサイトPPAはフィジカル・バーチャルどちらも、再エネ設備を新たに増やす効果である「追加性」が認められるとされています。
RE100などの国際イニシアチブにおいて、「追加性」は高く評価されることが多く、企業にとっては有効な施策となります。
非化石証書とは、太陽光発電や風力発電などで生み出された再生可能エネルギーおよび原子力発電で生成された電力の「環境価値」を証書として取引可能な形にしたものです。非化石証書(再エネ指定)を購入することで、通常の電力を利用していても実質的に再生可能エネルギーの電力を使用しているとみなされます。
非化石証書の大きなメリットは、現在の電力契約を変更することなく、非化石証書を単独で購入できる点にあります。そのため手軽に脱炭素社会の実現に貢献できます。ただし、非化石証書を調達するには、日本卸電力取引所(JEPX)の会員になるなどの条件があり、一定のコストや手間が伴います。非化石証書を調達する際には、代理購入のサービスを提供する事業者を利用するのがおすすめです。
また、環境価値を取引する仕組みとしては「J-クレジット」という制度もあります。J-クレジットは、電気だけでなく電気以外の活動におけるCO2排出もオフセット ※ することができます。転売が可能であり、使用期限もないことから、比較的利便性が高い仕組みとされています。
※オフセットとは、環境負荷や温室効果ガスの排出など、特定の負の影響を相殺するために行われる行為やプロセスのことを指します。
建築業界では、工事現場を中心に、本社ビルやグループ会社全体のカーボンニュートラル化が進んでいます。
ここでは、グループ企業の再エネ化を推進した建築業界の取り組み事例を紹介します。
戸田建設グループの東和観光開発は、「マリッサリゾート サザンセト周防大島」で使用する電力をオフサイトPPA(フィジカル)およびトラッキング付非化石証書による実質再エネ電力で賄うことにより、マリッサリゾートの100%再エネ化を実現させました。
戸田建設は、2019年に建築業界で初めてRE100に加盟しました。そのため、RE100の技術要件で重視される「追加性」のある電力調達を今後も推進していくとのことです。
参考:戸田建設リリース「オフサイトコーポレートPPAの契約締結について」
参考:エナリスリリース「オフサイトコーポレートPPAの契約締結について ~芙蓉リースと、戸田建設関連施設の100%再エネ化を実現~」
本記事ではカーボンニュートラルに向けた建築業界の現状と今後の取り組みについて解説しました。
エナリスでは、お客さまのカーボンニュートラルに向けてのコンサルティングを実施しています。再エネ電力への切り替えやPPAの導入、非化石証書を活用するスキームなど、お客さまのご要望や課題に合わせて適切なカーボンニュートラルの方法をご提案します。お気軽にご相談ください。
自社に合うカーボンニュートラル手法がわからない…という建設会社さまも大丈夫!
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