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CDP2024の変更点は?統合質問書や中小企業向け質問書等を解説
近年、世界中で盛んになっている気候変動対策の一環として、CDPの質問書に回答する企業が多くなっています。CDPの質問書は毎年プライム上場企業を中心とした大企業に対して送付されていますが、2024年にはこの質問書の内容が一 […]
日本の電気事業制度は、1995年の発電部門の自由化を皮切りに、小売部門の自由化対象の順次拡大など、段階的に改革が実行されてきました。東日本大震災を契機に、従来の電力システムが抱える様々な課題が明らかとなり、地域ごとに独占的事業者が供給する仕組みを見直し、より柔軟なシステムにより、電力の低廉かつ安定的な供給を一層進めることへの社会的要請が高まり、電力システム改革が加速度的に推進されました。
その過程においてさまざまな電力取引の市場がつくられています。
また、近年は脱炭素化への関心の高まりから、電力以外に環境価値を取引する市場も新設されるなど、取引の対象が拡大しています。電力に関する市場にはどのような種類があるのか、それぞれのルールや特徴はどのようなものかを理解することは、社会全体の脱炭素の取り組みを理解する一助となります。
本記事では、日本の主な電力関連取引市場の種類と、それぞれの特徴について解説していきます。
石炭火力、大型水力、原子力、地熱などの、発電コストが低く、安定的かつ効率的に発電が可能な電力源を「ベースロード電源」と呼び、それらの電源を取引する電力市場をベースロード市場といいます。
ベースロード電源は、電力自由化の前から大手電力会社が開発・保有していました。大型の発電所であるベースロード電源は、開発にあたって立地の制約があり、開発コストも高額になるため、新規開発は容易ではありません。そのため、新電力がベースロード電源を保有することは難しく、電力自由化後も新電力がベースロード電源を調達しにくい状況が続いてきました。
そこで、新電力が大手電力会社と同等にベースロード電源にアクセスできる環境を整えるため、2019年7月に日本卸電力取引所(JEPX)内にベースロード市場が開設されました。
ベースロード市場における主な売り手は旧一般電気事業者や電源開発、買い手は新電力であり、電力事業に携わっていない一般企業は取引できません。市場管理者はJEPXで、受け渡し年度の前年度に年4回オークションが開催されています。ベースロード市場で取引される商品としては、年間固定価格で購入できる「1年商品固定価格」の他、2023年度オークションからは、燃料費調整の要素を組み込んだ「事後調整付1年商品・2年商品」もラインナップされました。
JEPXにおける主要な電力取引市場のひとつで、JEPXが電力取引を開始した2005年から運用されています。スポット市場は翌日に発電または販売する電気を前日までに入札して取引を行う市場で、「一日前市場」とも呼ばれます。2022年度の取引実績は、3,185億kWhでした。
1コマ30分単位、1日当たり48コマ(24時間分)の商品を取引します。沖縄電力エリアを除く全国の電気が取引され、最低取引単位は1コマ当たり50kWh。価格の決定方法は、約定価格より高い売札や安い買札は不成立となるシングルプライスオークション形式です。
スポット市場における売り手は大手電力会社や新電力、発電事業者など、買い手は大手電力会社や新電力などで、JEPXが市場を管理しています。スポット市場で取引を行うにはJEPXの取引会員になる必要があり、純資産額が最低1,000万円あることなど、いくつかの要件が設けられています。
JEPXにおける中長期的な価格の見通し、スポット価格変動リスクのヘッジ機能、相対取引当事者間の信用リスクのヘッジ機能の提供を通じて電気事業者の経営安定化を図るための市場です。将来の売買価格を取引時点の価格で購入することを約束し、その時点では現物の受け渡しは行わず、金銭の清算・決済のみが行われます。取引期間は、四半期、半年、年など複数月を組み合わせることが可能です。
電力先物市場は、東京商品取引所(TOCOM)内に設置され、「東エリア・ベースロード」、「西エリア・ベースロード」、「東エリア・日中ロード」、「西エリア・日中ロード」の4商品が2022年4月から本上場されています。市場管理者はTOCOMであり、電気事業者のほかに、金融機関や海外エネルギー会社なども取引に参加でき、一般企業も金融商品のひとつとして電力先物取引を行うことができます。
また、欧州エネルギー取引所(European Energy Exchange : EEX)が 2020 年 5 月から参入し、取引量は90%以上のシェアを占めています。
電力自由化や再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大によって、発電事業者が発電所の新設や更新にかかる長期的なコスト回収の見通しを立てにくい、という課題があります。発電所の適切な新設や更新が行われなければ、電気の安定供給が損なわれる恐れもあります。
そこで、発電所への適切な投資を促す目的で、2020年に創設されたのが容量市場です。容量市場では、4年後の電気の供給力(kW)が取引されます。供給力とは、必要なときに電気を提供できる能力のことです。市場管理者である電力広域的運営推進機関が、将来の電気の最大需要から必要な供給力を算定し、毎年オークションを開催して4年後の供給力を募ります。
容量市場オークションには、4年後の対象期間に供給力を提供できるすべての電源が参加でき、発電設備・需要設備などを所有する一般企業も参加できます。ただし、対象期間に固定価格買取(FIT)制度、FIP制度の適用を受ける発電設備は、容量市場に参加することはできません。容量市場へ参加するには、一定規模以上の供給力を持つ電源であることなどの要件が定められています。ただし、1,000kW未満の小規模なエネルギーリソースであってもアグリゲーターを通じることで参加することができます。
また、容量市場ではオークションにより単年度で価格が決定されるため、将来的な収入を固定価格で得られるわけではありません。この点を解決し、さらなる脱炭素電源への新規投資を促すために創設されたのが、「長期脱炭素電源オークション」です。
原則20年間の固定費を回収できるため、発電事業者にとっては長期的に投資回収を予見することができるようになります。同時に、新規投資が増加すれば電力の安定供給に繋がると期待されています。
調整力とは、電源の出力を増減させるなどして、周波数制御・電気の需給バランス調整・その他の電力系統安定化に寄与する力のことです。調整力を広く集めるために一般送配電事業者が行う公募が、調整力公募です。電力自由化以前は、大手電力会社が自社や自社顧客の調整力を活用していましたが、2016年の電力自由化によって、原則として公募で調整力を調達することが義務付けられました。
調整力公募では、出力を増減できる電源などによって提供される調整力「ΔkW(デルタキロワット)」が募集されます。具体的には、揚水発電や火力発電など、素早い出力コントロールが可能な電源のほか、電気の需要パターンを変えるデマンドレスポンスなども募集の対象に含まれます。なお、調整力公募は2021年4月以降、段階的に需給調整市場や容量市場に統合され、2024年度以降、全面的に移行する予定です。
上記の調整力公募で行っていた調整力の確保をより広域的に実施するため、2021年に需給調整市場が開設されました。調整力公募による調整力の調達はそれぞれの電力エリア内で行われていましたが、エリアごとの調整コストには差があることがわかっていました。それを平準化し全体として低減する目的で、エリアを越えて調達できるよう創設されたのが需給調整市場です。
取引されるのは周波数制御・需給バランス調整に必要となる調整力です。
発電・蓄電設備などを所有する一般企業や、電気の需要パターンを変化させるデマンドレスポンスに対応できる企業も市場に参加することができます。
ゲートクローズ(発電事業者および小売電気事業者が提出する各種当日計画の提出締め切り)までは小売電気事業者が供給力を調達し、それ以降は一般送配電事業者が調整力電源を運用して需給バランス調整を行います。
需給調整市場の運営主体は、一般送配電事業者によって2021年に発足した電力需給調整力取引所(EPRX)です。なお、EPRXは市場運営の責任を明確化する目的で、2024年4月に一般社団法人化しました。
昨今、世界的に再エネの普及が推進されていますが、日本の主要な再エネである太陽光発電や風力発電は発電出力が天候によって大きく変動してしまいます。再エネの拡大という観点においても、需給調整市場の役割は大きいといえます。
非化石価値とは、化石燃料を使わない電源によって作られた電気であるという価値を言い、これを取引しやすいように見える化したものが非化石証書です。
固定価格買取(FIT)制度を適用中の再エネも非化石価値があります。従来、FIT制度下の再エネによる非化石価値は国民に帰属するものとして、小売電気事業者はこれを訴求することができませんでしたが、「電力の小売営業に関する指針」が改定されたことによって条件付きで訴求可能になりました。
この非化石価値を取り出して必要な事業者に購入してもらうことができれば、結果的にFIT制度を支える国民負担の軽減にも寄与します。
そこで、FIT発電所の非化石価値を取り引きするため、2018年5月に創設されたのが、非化石価値取引市場です。
2020年度からは、原子力や大規模水力等のFIT以外の電源(非FIT電源)による非化石価値の取引も開始されました。
同市場創設時の非化石価値の主な用途は、小売電気事業者の非化石電源比率を高めることとされ、そのため取引に参加できるのは電力会社だけでした。電力ユーザーは小売電気事業者から再エネメニュー等を契約することで、電力使用にともなう二酸化炭素排出量を削減し、温対法等に活用していました。
一方、近年、電力ユーザーの間でも非化石価値を調達したいというニーズの高まりに対応し、電力ユーザーが取引を行える市場をつくることになりました。それが、非化石価値取引市場の中に2021年11月につくられた「再エネ価値取引市場」です。再エネ価値取引市場の創設により、JEPXの会員になれば、一般企業も同市場に参加することができるようになりました。
また、従来小売電気事業者が取引を行っていた市場は「高度化法義務達成市場」となりました。
高度化法義務達成市場は非FIT証書、再エネ価値取引市場ではFIT証書を取引対象としています。
カーボン・クレジット市場は、経済産業省が中心となって進めている「GXリーグ」における取り組みのひとつ。CO2削減に自主的に取り組む企業間で、排出権(クレジット)を取引できる枠組みのことです。クレジットの取引を通じて、企業の排出削減活動を促進する狙いがあります。なお、GX(グリーントランスフォーメーション)リーグとは、2050年カーボンニュートラルを目指す上で、CO2削減とともに新たなビジネスを生み出し、経済と環境の好循環を目指そうとする産官学の取り組みです。
経済産業省は2022年6月、TOCOMとカーボン・クレジットの創設に向けた実証を始め、2023年10月にTOCOM内にカーボン・クレジット市場を開設しました。当面は、国内で広く流通しているJクレジットの取引が中心ですが、将来的には、国家間で取引できるJCM(二国間クレジット制度)など、取引可能なクレジットの多様化を目指すとされています。
カーボン・クレジット市場には2024年4月現在、273者が参加しています。TOCOMが定める登録要件を満たし、申し込み手続きを行えば、一般企業もカーボン・クレジット市場に参加することができます。
同時市場とは、必要な供給力(kWh)や、調整力(ΔkW)などを同時に取引する場として現在検討されている市場です。こうした電気の取引はこれまで、JEPXのスポット市場や需給調整市場、容量市場を通じて行われていましたが、取引の場が別々であることから、手続きが煩雑であるなど、さまざまな課題が顕在化してきました。そこで、経済産業省は2023年8月、供給力や調整力を含めてすべての電気の価値を同時に取引できる仕組みとして、同時市場を創設する検討を始めました。
2024年4月現在、具体的には、必要な供給力(kWh)と調整力(ΔkW)をコストが低い順番に確保する「メリットオーダー」のロジックなどが検討されており、同時市場の仕組みの具体化が進んでいます。
ベースロード市場 | スポット市場 | 電力先物市場 | |
---|---|---|---|
参加者 |
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参加資格 | 日本卸電力取引所(JEPX)への入会 | 日本卸電力取引所(JEPX)への入会 |
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取引価値 | 電力量(kWh) | 電力量(kWh) | 電力量(kWh) |
直近の取引量 | 693.4MW(2024年度受け渡し分) | 3,183億kWh(2022年度) |
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市場管理者 | 日本卸電力取引所(JEPX) | 日本卸電力取引所(JEPX) |
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主な目的 | ベースロード電源を保有する大手電力会社に供出を求めることで、小売競争の活性化を図る | 電力自由化に伴って、より多くの新規参入の小売電気事業者が電気を調達しやすくするために整備された | JEPXの市場価格の変動をリスクヘッジする |
容量市場 | 需給調整市場 | 調整力公募 | |
---|---|---|---|
参加者 |
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参加資格 | 電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表する容量市場メインオークション募集要綱を満たすこと | 需給調整市場の募集要綱を満たすこと | 一般送配電事業者の調整力募集要綱を満たすこと |
取引価値 | 4年後の供給力(kW) | 調整力 | 調整力 |
直近の取引量 | 16万2,710MW(対象実需給年度2026年度) | - |
|
市場管理者 | 電力広域的運営推進機関(OCCTO) | 送配電網協議会、EPRX | 一般送配電事業者 |
主な目的 | 4年後の供給力(kW)を取引することで、投資予見性を高め、発電所の新設や更新などを促す | 電気の安定的な供給に必要な調整力をより広域的に調達する。 | 電気の需要の変化に応じた調整力を調達することで、電気の安定的な供給を行う。2024年度に需給調整市場へ統合 |
非化石価値取引市場 | カーボン・クレジット市場 | 同時市場 | |
---|---|---|---|
参加者 |
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(検討中) |
参加資格 | 日本卸電力取引所(JEPX)への入会 | TOCOMの「カーボン・クレジット市場参加者」への登録 | (検討中) |
取引価値 | 非FIT非化石証書・FIT非化石証書 | 再エネ価値(Jクレジット) | 電力量(kWh)・調整力(ΔkW) |
直近の取引量 |
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10,044t-CO2(2023年10月11日の創設〜20日まで) | (未開設のためなし) |
市場管理者 | 日本卸電力取引所(JEPX) | 東京商品取引所(TOCOM) | (検討中) |
主な目的 | 2017年、小売電気事業者の非化石電源調達比率を向上するために非化石価値取引市場が開設され、2021年、需要家の再エネ価値調達ニーズに対応して再エネ価値取引市場が創設された | 経済産業省のGXリーグの一環として、企業の排出削減を促進するために創設された | 変動性の再生可能エネルギーをより効率よく導入するために、供給力(kW)と調整力(ΔkW)をコストが低順に調達できる仕組みとして、同時市場を検討中 |
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