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IPCCとは?組織の目的や構成・報告書の内容をわかりやすく解説

気候変動への対策が世界的な課題となる中、その政策決定に重要な指針を提供している国際機関「IPCC」。本記事では、世界の気候変動対策の科学的基盤となっているIPCCについて、その役割や活動内容、最新の報告書の要点などをわかりやすく解説します。

IPCCは、TCFD※のシナリオ分析においても、活用が推奨されています。

TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)。気候変動に関する企業の取り組みを求める枠組み。

「TCFDのシナリオ分析について」詳しくは下記の記事をご確認ください。
>TCFDのシナリオ分析とは? 手順とポイントを解説

IPCCとは

IPCCは、気候変動に関する科学的な評価を行い、世界の政策決定に重要な指針を提供している国際機関です。世界中の科学者が協力して最新の研究成果を評価し、さらにそれをまとめて定期的に報告書として発表しています。

IPCCの正式名称と設立経緯

IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略称で、日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と訳されます。
地球温暖化への国際的な懸念が高まる中、科学的な知見を集約し、政策立案の基礎となる情報を提供する組織の必要性が認識されたため、世界気象機関(WMO)国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立されました。
2024年11月時点で、世界195の国・地域が加盟しています。

IPCCの役割と目的

IPCCの目的は、「各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えること」とされています。
自ら研究を行うのではなく、世界中の研究者や専門家と協力して既存の科学的文献を評価・統合し、包括的な報告書として公表することが主な役割です。
政策決定者に科学的根拠を提供する一方で、特定の政策提言は行わない中立的な立場を保っている点が大きな特徴だと言えるでしょう。

IPCCの組織構成と活動内容

IPCCは、気候変動に関するさまざまな側面を専門的に評価するため、複数の部会で構成されています。
ここでは、IPCCの組織構成と活動内容について解説します。

3つの作業部会とタスクフォースの役割

IPCCは、3つの作業部会とインベントリタスクフォースで構成されています。
それぞれの主な役割は以下の通りです。

部門主な役割
第1作業部会
(気候変動の科学的根拠)
気候システムの変化や地球温暖化の科学的な原因を分析し、将来予測を行う
第2作業部会
(気候変動の影響、適応、脆弱性)
気候変動が自然界や社会に与える影響を評価し、適応策を検討する
第3作業部会
(気候変動の緩和策)
温室効果ガスの削減方法や対策の経済的・技術的な分析を行う
タスクフォース
(温室効果ガス排出量の算定方法)
各国の温室効果ガス排出量を正確に算定するための手法を開発・改善する
出典:経済産業省 資源エネルギー庁|気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?

IPCCの主要な活動|報告書の作成と発表

IPCCの報告書は以下のように厳密なプロセスを経て作成、公表されます。

プロセス概要
スコーピング報告書の全体的な枠組みと主要なテーマを決定
アウトライン承認報告書の章立てと内容の概要を承認
ノミネーション(執筆者推薦)各国政府や関係機関から執筆者を推薦
執筆陣の選定専門性と地域バランスを考慮して執筆者を選定
⑤1次ドラフト(専門家査読)専門家による査読を実施
⑥2次ドラフト(政府査読・専門家査読)各国政府と専門家による査読を実施
最終ドラフト及び政策決定者向け要約(SPM政策決定者向け要約(SPM)を作成
⑧SPM最終ドラフト(政府査読)政府による最終査読を実施
報告書の承認・受諾作業部会/パネルがSPMの承認および報告書の受諾を実施
報告書の公表総会での承認を経て正式に公表
参照:経済産業省 資源エネルギー庁|気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?

IPCC報告書|地球温暖化の科学的根拠と対策

IPCC報告書は気候変動に関する世界最大の科学的評価として、国際的な取り決め、国際交渉並びに各国の政策立案の基礎となっています。政策決定者向け要約(SPM:Summary for policymakers)は各国の言語に翻訳され、専門家以外でも理解しやすい形で提供されています。

報告書には定期的に発行される評価報告書と、特定のテーマに焦点を当てた特別報告書の2種類があり、定期的な報告書としては、2023年に最新の第6次評価報告書(AR6)が公表されました。

IPCC報告書の歴史と進化

1990年から現在までの主要な報告書とその内容は以下の通りです。

報告書公表年主な内容
第1次評価報告書1990年人為起源の温室効果ガスが重大な気候変化を生じさせるおそれがある
第2次評価報告書1995年人間活動が、人類の歴史上かつてないほどに地球の気候を変える可能性がある
第3次評価報告書2001年過去50年間の温暖化のほとんどが人間活動によるものであるというより強力な証拠が得られた
第4次評価報告書2007年人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い
第5次評価報告書2014年人間の影響が20世紀半ば以降の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い
第6次評価報告書2023年人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない
参照:経済産業省 資源エネルギー庁|気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?

気候モデルの精度向上や観測データの細部化・高精度化とともに長年のデータの蓄積により、時代とともに報告書の精度は高まっています。当初はおおまかな警告にとどまっていましたが、近年では地域レベルでの影響を予測したり、その具体的な提言に値するものになりました。

最新の第6次評価報告書(AR6)のポイント

第6次評価報告書の要点は以下の通りです。

報告書の要点
評価報告書 第1作業部会
  • 人為的活動が大気、海洋及び陸域の温暖化の主要因であることは「疑う余地がない」
  • 向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は 1.5℃及び 2℃を超える
  • 熱波・豪雨・熱帯低気圧など極端気象の増加が人間活動の影響によるものと特定され、温暖化が進むほど頻度と強度が増大すると予測される
評価報告書 第2作業部会
  • 気候変動の影響は世界中で顕在化しており、自然環境の破壊や人間社会への悪影響が広がっている
  • 適応策の実施は進んでいるものの、温暖化の進行速度に追いついておらず、さらなる対策の遅れはより深刻なリスクをもたらす
  • 気候変動に強い社会の実現は温暖化が進むほど困難となり、1.5℃超過で深刻な課題に、2℃超過ではあと戻りできない不可逆な状態に陥る可能性を警告
評価報告書 第3作業部会
  • 世界のGHG排出量は増加を続けており、現状の各国目標では1.5℃目標達成は困難
  • 再生可能エネルギーのコストが大幅に低下するなど技術的な進展は見られる
  • 2030年までに2019年比43%削減という目標を達成するには、あらゆる分野での早急な対策強化が必要。
統合報告書
  • 2035年までに温室効果ガスの排出量を2019年比で60%削減する必要がある
特別報告書等
  • 1.5℃特別報告書:1.5℃未満に抑制するためには2030年までに2010年比で約45%のCO2排出削減と2050年までの実質ゼロ達成が必要
  • 土地関係特別報告書:陸域の温暖化が海域の約2倍のペースで進行しており、農業・林業を含む土地利用が温室効果ガス排出の約23%を占めることから、食品ロスの削減や持続可能な土地利用管理などシステム全体での早急な対策が必要
  • 海洋・雪氷圏特別報告書:海面上昇や海洋生態系への影響が深刻化しており、このまま対策を取らなければ2100年までに沿岸湿地の大規模な消失や漁業への重大な影響が予測される
参照:環境省|気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル

また、第6次報告書では、将来の気候変動予測に社会経済の発展の傾向を仮定した「共有社会経済経路(SSP)シナリオ」を採用し、社会経済の発展傾向と温室効果ガスによる放射強制力※を組み合わせて、5つの異なる未来像を提示しています。

放射強制力:温室効果ガスの増減や、様々な要因によって地球に出入りするエネルギーのバランスが変わること。

シナリオ概要
SSP1-1.9持続可能な発展を実現し、温度上昇を1.5℃未満に抑制するシナリオ
SSP1-2.6持続可能な発展を実現し、温度上昇を2℃未満に抑えるシナリオ
SSP2-4.5中程度の対策を実施する中道的シナリオ。2.7℃程度の上昇が見込まれる
SSP3-7.0地域対立により対策が進まないシナリオ
SSP5-8.5化石燃料依存が続き最も対策が遅れるシナリオ

IPCC報告書が国際的な気候変動政策に与える影響

IPCC報告書は、1992年の気候変動枠組条約※(UNFCCC)の採択以来、国際的な気候変動政策の科学的基盤として重要な役割を果たしています。
報告書の科学的知見は国際交渉における重要な判断材料となっており、特に近年では、パリ協定における1.5℃目標の設定根拠を提供したほか、各国の排出削減目標※(NDC)の策定や見直しにも大きな影響を与えています。

気候変動枠組条約(UNFCCC):地球温暖化防止のための国際的枠組みを定めた条約。1992年に採択され、1994年に発効。温室効果ガスの排出・吸収目録の作成などを義務付けた。

排出削減目標(NDC):パリ協定で定められた、各国が5年ごとに提出・更新する温室効果ガスの削減目標。日本は2030年度に2013年度比で46%削減を目指すことを表明した。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁|気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?(※一部、加工を加えています。)

IPCCと世界の気候変動対策の現状

IPCCの第6次評価報告書は、気候変動対策の緊急性をこれまで以上に明確に示しています。
世界各国での行動加速が求められていますが、各国の協力がなければ対策は進まないのが現状です。また、途上国への補償や支援、技術移転といったさまざまな課題も存在しています。

以下では、IPCCの知見を基盤とした国際社会の対応について紹介します。

IPCCの警告と国際社会の対応|COPとの関係

2023年に開催されたCOP28(第28回国連気候変動枠組条約締約国会議)では、パリ協定の目標達成に向けた世界全体の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク(GST)」が初めて実施されました。

人為的活動が温暖化の主要因であることに「疑う余地がない」と断定し、産業革命以前に比べて、約1.09℃の気温上昇が生じていることを示したIPCCの第6次評価報告書を受け、COP28では、以下のような具体的目標が設定されています。

このようにIPCCが示す科学的知見は、世界各国における削減目標の基準として機能しているのです。

まとめ

この記事でお伝えしたように、IPCCは気候変動に関する科学的知見を評価・統合し、国際社会の政策決定にとって重要な基盤を提供しています。
この知見は、日本をはじめ各国の気候変動対策の策定に大きな影響を与えています。

企業は、気候変動に関するリスクを評価するために、TCFDのガイドラインに従ってシナリオ分析を行います。この分析では、国際的な気候変動に関する報告、たとえばIPCCのレポートを参考にしながら、異なる未来のシナリオを想定して、それぞれのシナリオで自社にどのような影響があるかを考察。さらに、投資家や顧客などのステークホルダーがどのように動くかも考慮に入れて、これらの影響を詳しく描き出すことが推奨されています。

なお、2024年に開催された「IPCC第61回総会」では、「第7次評価(AR7)サイクル」について議論が行われ、「気候変動と都市に関する特別報告書」及び「短寿命気候強制力因子インベントリに関する2027年IPCC方法論報告書」のアウトラインが承認されました。AR7サイクルの具体的なスケジュールについては、引き続き議論が進められることになりました。

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近藤 元博 Motohiro Kondoh 愛知工業大学総合技術研究所 教授

1987年 トヨタ自動車株式会社。プラントエンジニアリング部 生産企画部 総合企画部長。第1トヨタ企画部長 戦略副社長会事務局長 他。国内外の資源、エネルギー、化学物質、環境管理、生産企画、経営企画、事業企画等事業戦略を担当。
2020年 愛知工業大学総合技術研究所 教授。産学連携、地域連携等を通じ、脱炭素社会、資源循環社会の達成に向けて研究開発、教育に従事。経済産業省総合資源エネルギー調査会 脱炭素燃料政策小委員会。カーボンマネジメント小委員会。内閣官房 国土強靱化推進会議 委員 他

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