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JEPXとは?仕組みや取引価格の決定方法を詳しく解説

電力の自由化に伴い設立された「JEPX(日本卸電力取引所)」。名前は耳にしたことがあってもJEPXの役割や、仕組みなどについて詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか?

本記事では、JEPXが何を行っている組織なのか、どのような仕組みで成り立っているのかなどについて解説します。

JEPX(日本卸電力取引所)とは?

JEPX(Japan Electric Power Exchange)とは、2003年に設立された日本で唯一電気の売買ができる市場です。
取引を行うには「取引会員」になる必要があり、2024年6月14日時点での取引会員数は314社(特別取引会員含む)にのぼります。

JEPXが設立された理由は「電力の自由化」が関係しています。

電力が自由化する以前は、各地域の大手電力会社が発電、送電、小売に至る電気供給の全てを担っていました。しかし、1995年にまずは発電部門が自由化され、大手電力会社以外も電気の供給が可能になりました。その後、小売においては2000年に契約電力2,000kW以上の特別高圧が、2004年に契約電力500kW以上の高圧が自由化の対象となり、2016年4月に一般家庭を含む低圧の電力ユーザーも電力会社を自由に選べるようになったことで、電力小売が全面自由化となりました。

このように段階的に電力小売が自由化されるなかで、新規に参入する小売電気事業者(当時の法律では特定規模電気事業者と言いました)、いわゆる新電力(当時は新電力という名称はなく、PPS:Power Producer and Supplierと呼んでいました)が現れました。しかし彼らは発電設備を保有していないことが多く、電気の調達が困難でした。そこで、発電事業者と新電力を含む小売電気事業者が安定的に電気の取引ができるようにと設立されたのがJEPXです。

JEPXの仕組み

JEPXは発電事業者などが電気を売りに出し、小売電気事業者などが電気を買うという仕組みで成り立っています。

電気は現在の技術では大量かつ安価に貯蔵できないため、需要と供給の量が異なると停電などのおそれがあり、単位時間ごとに電気の需要と供給の量を一致させる必要があります。これを「同時同量の原則」と言います。15分や1時間単位としている国や地域もありますが、日本では30分単位で管理が行われます。

したがって、JEPXでは24時間を30分ごと計48コマに分割し、スポット取引や時間前取引(スポット取引・時間前取引については、次の「JEPXの取引市場」で解説)では1コマごとに電気の売買が行われ、売り手は1コマごとに売りたい電力量と価格を提示し、買い手は1コマごとに買いたい電力量と価格を提示し、売り手と買い手の提示した価格から、そのコマの電力の価格が決まります。

JEPXの取引市場

JEPXでは役割が異なる複数の電力取引市場が開設されています。
主な市場は下記です。

それぞれの特徴を見ていきましょう。

スポット市場

スポット市場は、JEPXにおけるメイン市場です。スポット市場は別名で一日前市場といわれるように、受渡し日の前日に翌日に受け渡しを行う電気の取引をします。1日を30分刻みの合計48コマに区切り、1コマごとに電気の売買が行われています。市場で売買が決まることを約定(やくじょう)と言います。

電力の単位は0.1MWから取引可能となっており、1コマごとに売買したい電力量と値段を提示するという仕組みです。入札は以下のような取引システムを介して行われます。

引用:日本卸電力取引所(J E PX)取引ガイド「一日前市場(スポット市場)について」

なお、約定日の前日までの入札受付時間は午前8時から午後5時までであり、毎日10時に約定処理が行われます。約定処理はシングルプライスオークション方式 ※ で行われます。

シングルプライスオークション方式:買い注文と売り注文が交差する価格で1コマごとの約定価格が決まり、参加者は自らの入札価格によらず約定価格で取引されるオークション方式。たとえば、15円で約定する場合、15円より安い価格で売り入札した場合もしくは15円より高い価格で買い入札した場合に約定されます。

先渡市場

先渡市場とは、将来的に受け渡す電気の取引を行う市場です。リスクヘッジとして利用されることが多く、将来的に電気価格の高騰が起きても問題がないよう、事前(最大3年前から購入可能)に電気を購入しておく取引になります。

下の図の一番左が「先渡市場」です。

引用:日本卸電力取引所(J E PX)取引ガイド「取引の種類|先渡市場・掲示板市場」

先渡市場で購入できる商品は下記の3種類です。

上記の商品には、週間型と月間型が「24時間型」「平日昼間型」、年間型は「平日昼間型」があり、自分が購入したい期間と時間帯を組み合わせて購入できます。例えば、電気の消費量が高い平日昼間の電気を購入しておくことで、将来的に電気の価格が高騰した場合に備えられます。

株の取引などと同様のザラバ方式の取引になります。ザラバ方式とは売りと買いの量と価格が並んだ板と呼ばれる画面を見ながら行う取引で、板上の最低価格の売り注文と最高価格の買い注文が一致した場合に約定となります。

JEPXが開設された頃の先渡取引では約定すると相手が判明して、その後、その相手と通常の相対契約を締結する必要がありました。この方法だと与信の問題があり取引数が伸び悩んだため、後にスポット取引を用いた受渡しを行うことで匿名性を担保する現在の方法に移行しました。しかしながら、似たような取引が可能な先物取引所(東京商品取引所)の開始などもあり先渡取引の取引量は低調です。

時間前市場

時間前市場とは、スポット市場終了後から実需給の1時間前の間に生じる電気の需要と供給のミスマッチに対応するための市場です。

時間前市場も先渡取引と同様のザラバ方式の取引となります。
なお、時間軸でスポット市場・先渡市場・時間前市場を整理すると下記のようになります。

引用:日本卸電力取引所(JEPX)取引ガイド「取引の種類|一日前市場(スポット市場)・当日市場(時間前市場)」

時間前市場も先渡取引と同様のザラバ方式の取引となります。

ベースロード市場

ベースロード電源とは、発電コストが比較的低廉で、安定的に稼働できる電源のことです。具体的な発電方式としては、石炭火力発電や原子力発電、一般的な水力発電、地熱発電が含まれます。

ベースロード電源は常時安定した電力を生み出せるのですが、発電量を細かく増やす・減らすといった調整が容易ではありません。そこで現在電力会社各社は、ベースロード電源で昼夜問わず一定の電力を生み出し、これに発電量の調整が容易な石油火力発電やLNG火力発電、揚水式水力発電を組み合わせることで、1日の電力消費量の変化に対応しています。

ベースロード電源による発電は比較的低コストなので、いかにベースロード電源を確保するかが電力会社にとって重要です。しかし日本においてベースロード電源を保有しているのはほとんどが大手電力会社であり、新電力が電力小売事業に参入するためのハードルとなっていました。

そこで機会の均等を図り小売競争を活性化させるため、2019年にベースロード電源をもつ企業に電力の供出が義務付けられ、JEPX内に「ベースロード市場」が開設されたのです。

現在は、7月、9月、11月、1月の年4回、翌年度1年間のベースロード電源の取引が実施されています。取引はスポット取引と同様のシングルプライスオークション方式で行われます。

もともと存在した常時バックアップ取引の代替手段としても期待されていたのですが、固定価格であることや取引から需給開始までの期間が長いことなどの課題があり、取引量はあまり多くありません。

非化石価値取引市場

ここまで電気の取引をする市場を紹介してきましたが、最後に、今後取引の活性化が予想されている「非化石価値取引市場」について紹介します。

非化石価値とは、地球温暖化の原因であるCO2を発生しない方法で作られた電気が持つ「環境価値」のこと。石油や石炭といった化石燃料ではなく、太陽光発電や水力発電といった「非化石」のエネルギー源が用いられるため、「非化石価値」と呼ばれています。

環境価値について詳しくはこちら>環境価値とは|企業が取り入れるメリットや調達方法、注意点をわかりやすく解説

JEPXでは、2018年からこの非化石価値を電気そのものの価値とは切り離し「証書」として取引しています。電力ユーザーは使用した電力量に合わせて非化石証書を購入することで、電力の使用にともなうCO2排出はしていないと対外的に表明することができます。

なお、2021年11月から、電力ユーザー自身が直接証書を購入できるようになりました(JEPXの会員になるなどの条件があります)。
脱炭素経営が必要とされる昨今において、多くの企業から注目を集めている市場です。

スポット取引の価格決定方法

スポット取引では、1コマごとに電気の価格が異なります。価格は、下記のような要因の影響を受けつつ、需要側と供給側の要望がマッチした金額で決定します。

例えば、2024年3月31日の時間帯別取引価格の推移グラフは下図のようになっています。太陽光が発電する昼間時間帯を含めた午前8時から午後2時までの6時間に価格が最も安くなっており、最低入札価格の0.01円/kWhで取引されています。以前は昼間時間が高い場合が多かったのですが、最近の傾向としては、太陽光発電の普及により昼間の「電力余り」の状況が頻発し、エリアによっては最低入札価格の0.01円/kWhを記録する時間帯が増加しています。
価格の高低は需給バランスの状況、価格の絶対額はその時の燃料価格が大きく反映されていると考えられます。

引用:JEPX公式サイト|スポット取引インデックス情報「システムプライス」

卸電力市場価格の推移

下の表は、ここ10年間のJEPXスポット取引(全国平均)の年平均価格の推移です。

引用:JEPX公式サイト|スポット取引インデックス情報「システムプライス」

2014年度には14.67円/kWhでピークを迎え、その後年平均価格は下落傾向にありました。2019年度には、経済の停滞によってエネルギー需要が大幅に低下し、7.93円/kWhというJEPX市場開設以来の年平均最安値を更新しました。

2020年の年末から2021年の1月上旬には、石炭火力発電のトラブルによる停止やエネルギーミックス達成に向けての廃止、液化天然ガス(LNG)在庫の減少、さらには強烈な寒波による電力需要の高まりなど、さまざまな状況が重なり、発電所の出力低下による供給力が減少、電力がひっ迫しJEPXの取引金額が前例の無い高騰が続きましたが、政府や全国の電気事業者が互いに協力し合い、1月中旬頃にはある程度落ち着きを取り戻し、下旬にはおおむね沈静化されました。

2022年度にはロシアによるウクライナ侵攻により、天然ガスや原油、石炭の輸入が制限され、さらに急速に進行した円安の影響もあり、エネルギーコストが高騰しました。その結果、火力発電のコストも急激に上昇しました。JEPX取引価格もこれにともない、年平均20.41円/kWhと高騰しましたが、2023年度には元の水準に戻っています。

次に、2022年4月~2024年4月の2年間の月平均価格の推移を見ていきましょう。

引用:JEPX公式サイト|スポット取引インデックス情報「システムプライス」

2022年の夏から12月までは22〜25円/kWhの間で推移していましたが、2024年3月には10.66円/kWhまで低下しました。

JEPXと連動する電気料金プランとは

従来の一般的な電気料金プランでは、基本料金と従量単価が固定され、さらに月ごとに「燃料費調整額(※)」が変動することで従量料金が増減します。一方、「市場連動型プラン」は、JEPXスポット市場の30分ごとの価格変動に連動してリアルタイムに電気料金が変動するプランです。

燃料費調整額:火力発電所の主要な燃料である原油と液化天然ガス(LNG)、石炭の貿易統計価格に基づき算定される平均燃料価格と基準燃料価格との差分を電気料金に反映する制度。市場価格調整項を加え『燃料費等調整額』とする電力メニューもあります

市場連動型プランは、JEPXスポット市場からの調達価格に小売電力事業者の経費を上乗せして料金を算定するシンプルで明解なプランです。そのため、JEPXスポット市場が安定していて安値である場合には、大幅に電気料金を削減できる可能性があります。先述のように、時間帯によって最低入札価格の0.01円/kWhになるエリアでは特に大きなメリットがあるでしょう。

ただし、2022年のようにJEPXスポット市場価格が高騰する場合があることには注意が必要です。

エナリスでは市場価格の影響を受けにくい「電源連動型再エネメニュー」を提供しています。
JEPXスポット市場からの調達だけでなく、独自の電源調達と組み合わせることで一般的な市場連動型メニューと比べて価格変動が比較的小さい料金体系となっています。環境イニシアティブ「RE100」や「CDP」等に準拠する環境価値を付加した【実質再エネ100%の電力】であることも特徴です。

エナリスの「電源連動型再エネメニュー」について詳しく

JEPXでの取引には専門的なノウハウが必要

JEPXで適切に電気を取引するためには、スポット価格や需要の予測をうまく行い活用する専門的な技術と知見が必要不可欠です。
また、非化石価値取引市場は電力会社以外の企業でもJEPX会員であれば参加することができますが、JEPX会員になるには年会費の納入などいくつかの条件をクリアしなくてはならず、誰もが気軽に参加できるものではありません。

エナリスは創業以来小売電気事業者さま向けに需給管理のサービスを提供したり、電力ユーザーさま向けに電力小売等のサービスを通じて関係を築いてきたりと多くの実績があります。そのノウハウを活かし、小売電気事業者さま・電力ユーザーさまへサービス提供を行っています。下記のリンクより、サービスの詳細をぜひご覧くださいませ。

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エナリスの「非化石証書代理購入サービス」
エナリスが企業の皆さまにかわって非化石証書の調達を行います。詳細は下記よりお問い合わせください。
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Supervisor 監修者
新島 啓司 Keiji Nijima 環境コンサルタント

東京工業大学大学院 総合理工学研究科を修了後、約30年間、環境、再生可能エネルギー、ODAコンサルタント会社に勤務。在職中は自治体の環境施策、環境アセスメント、途上国援助業務の環境分野担当、風力や太陽光発電プロジェクトなど幅広い業務に従事。技術士環境部門(環境保全計画)、建設部門(建設環境)の資格を持つ。また、英語能力(TOEIC満点)を生かし、現在は英語講師としても活躍中。

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