GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナルエネルギーバーチャルPPAとは?電力ユーザー&発電事業者から見たメリット・デメリットを解説

バーチャルPPAとは?電力ユーザー&発電事業者から見たメリット・デメリットを解説

政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」を目指して、自社でCO2排出量削減目標を掲げる企業が増えています。こうした背景から、化石燃料を使用しない太陽光発電などの「再生可能エネルギー(以下、再エネ)」の導入が急速に進んでいます。

なかでも、再エネを導入して企業の事業活動に使用するCO2を削減する方法として広がりを見せているのが「PPAモデル」ですが、PPAにはいくつかの種類があることをご存じでしょうか?

今回の記事では、欧米では主流となっており国内でも今後導入が進むことが期待されている「バーチャルPPA」についてわかりやすく解説します。

バーチャルPPAとは?

「バーチャルPPA」は、第三者の保有する再エネ発電設備が生み出す電力から「環境価値」のみを切り離して取引するもので、新たな調達手段として注目されています。

※環境価値については下記の記事をご覧ください。
環境価値とは|取引理由や3つの証書、ビジネス上のメリットなどをわかりやすく解説

PPAモデルとは?

まず、大元の概念となるPPAモデルから説明しましょう。PPAとは電力購入契約を意味する「Power Purchase Agreement」の略で、電力ユーザーが発電事業者から一定期間、単価を固定して電力を購入するスキーム(契約形態)を表します。

再エネ電力を導入する手段としてもっとも想像しやすいのが、「自社保有の太陽光パネルなどを設置して発電し、それを消費する手段」ではないでしょうか。この場合、発電設備の設置・運用にかかる手間やコストは自社で負担する必要があります。屋根上などに太陽光発電設備を設置して自家消費する方法などがそれにあたります。

一方、PPAモデルでは自社が発電設備を設置・保有する必要は無く、第三者が設置・保有する再エネ発電設備により生み出された電力を使うことができます。つまり発電設備に対する初期投資や運用コストが不要です。

各調達手段の詳細については下記をご覧ください。
「自己託送」とは?メリットやオフサイトPPAとの違い、託送料金や「自己託送に係る指針」見直しを解説
オフサイトPPAとは?特徴やメリット・デメリットをわかりやすく解説
非化石証書とは?仕組みや特長をわかりやすく解説
J-クレジット制度とは?仕組みとメリットについてわかりやすく解説!

PPAモデルは発電設備の設置場所等により、「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」の大きく2種類に分けられます。

オンサイトPPAでは自社の敷地内(あるいはその近傍)に再エネ発電設備を設置して直接電力を供給しますが、オフサイトPPAでは自社から離れた場所(敷地外)から送配電システムを介して電力を供給します。

各スキームの違いについては、こちらの記事でも詳しく解説していますので併せてお読みください。
コーポレートPPAとは?オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いをわかりやすく解説!

バーチャルPPAとオフサイトPPA(フィジカル)との違い

オフサイトPPAには「バーチャル」と「フィジカル」の2種類があります。

2024年現在、国内で多く導入されているのがフィジカルPPAで、再エネ発電設備の電力と環境価値を一体として、電力ユーザーが一定期間、一定価格で調達できます。

一方、バーチャルPPAは再エネ電力から環境価値と電気を切り離して、環境価値のみを発電事業者と需要家間で直接取引するスキームです。

電気は、発電事業者が卸電力市場で売却しますが、あらかじめ取り決めた価格(PPA契約価格)と電力市場価格の差額を精算すること(差金決済)で発電事業者側の価格変動リスクを低減するのが一般的です。差金決済については次の項目で説明します。

電力と環境価値をセットで契約するオフサイトPPA(フィジカル)と違って、バーチャルPPAを活用することにより、電力ユーザーは契約中の電力契約を維持したまま、環境価値のみを得ることができます。

バーチャルPPAの仕組みと流れ

ここでは、バーチャルPPAの契約から実際に環境価値を入手するまでの流れについて説明します。

1. バーチャルPPA契約を締結

発電事業者と電力ユーザーの間で、バーチャルPPAの契約を締結します。なお、契約において重要となるのが以下の4項目です。

2. 電力を売買

発電事業者は、自社の再エネ発電設備から発電された電力を市場などへ売却し、売電収入を得ます。
電力ユーザーは、契約中の小売電気事業者から従来通りに電力を購入します。

3. 電力価格の差額をお互いに精算

バーチャルPPAでは発電事業者と電力ユーザーがPPA契約価格と市場価格の差額を相互に補填しあい、契約期間を通じて価格変動リスクをシェアするのが特徴です。

具体的には、発電事業者が市場等に売却した価格と、契約で定めた価格(PPA契約価格)との差額を定期的に精算します。これを「差金決済」と呼びます。

4. 環境価値を電力ユーザーに移転

差金決済とともに、発電事業者は契約で定められた分量の環境価値を電力ユーザーに移転します。

1~4を踏まえ、再度バーチャルPPAの図を見てみましょう。

バーチャルPPAは、電力ユーザーが長期間にわたって環境価値を購入し続ける契約です。これにより発電事業者は再エネ発電設備の収支の見通しが立ち、再エネ発電所を建設する投資判断をしやすくなります。つまり、バーチャルPPAは再エネ発電所の新設を促進する効果「追加性」があるといえます。

ちなみに、電力ユーザーが環境価値を入手する方法には、仲介会社等を通して環境価値のみを購入する方法もありますが、これは短期的な調達手段として利用されており、「追加性」は認められていません。

バーチャルPPAの電力ユーザー側のメリット

バーチャルPPAにおける電力ユーザーにとってのメリットをご紹介します。

再エネ発電設備への投資が不要

電力ユーザーにとって、バーチャルPPAの最大のメリットは、再エネ発電設備を自社で所有・運営をする必要がないため、初期投資や導入後のメンテナンス費用、将来の撤去費用等がかからないことです。

再エネ発電設備を所有しないので、発電電力量と需要電力量を一致させるための対応業務も不要です。発電所の運用にかかるリスクを負うことなく、環境価値を調達することが可能です。

電力契約の変更が不要

バーチャルPPAでは既存の電力契約をそのまま継続できるため、電力契約の変更に伴う煩雑な手続きが不要です。その上で、長期間安定して環境価値を調達することができるので、事業で使用する電力の大幅な再エネ化を促進できます。

需要地と離れたエリアからの環境価値調達も可能

バーチャルPPAの場合は環境価値のみを取引するため、再エネ発電所の立地に制約がありません。たとえば、日照条件など発電に適した場所に設置した再エネ発電設備から、異なる供給エリアの需要地に環境価値を送ることも可能です。

たとえば会社全体でより大規模なCO2削減を進める場合などに、会社が環境価値を一括調達して需要拠点ごとの必要量に合わせて割り当てることが可能です。

省エネ法・温対法の報告や国際イニシアチブなどに活用が可能

バーチャルPPA契約から得られた環境価値は、省エネ法・温対法 ※ の定期報告においてカーボンオフセットとしての活用が可能です。

また、追加性のある再エネ調達手段でもあるので、CDPやSBT、RE100などの国際イニシアチブから評価を得られやすいというメリットがあります。なお、東証プライム市場ではTCFDに基づく情報開示が実質義務化されています。

※省エネ法:エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律
※温対法:地球温暖化対策の推進に関する法律

省エネ法について詳しくはこちらの記事もご覧ください。
2023年省エネ法改正 3つの変更点と企業が対応すべき内容、デマンドレスポンスとの関連性を解説

バーチャルPPAの電力ユーザー側のデメリットと課題

一方、バーチャルPPAには以下のようなデメリット・課題もあります。

電力コストが固定できない

バーチャルPPAは、電力市場の値動きに応じて差金決済金額が変動します。そのため、市場の動きによっては予算計画とずれるおそれがあります。(ただし、電力契約を市場連動型メニューにすることで、一定のリスク低減も可能です。)

差金決済に関する整理が必要

差金決済に伴う社内業務および会計手続きが発生しますので、自社が取引する税理士や会計士、監査法人等への事前確認も必要になります。

経済産業省の補助金の対象にならない

自社で再エネ発電設備を設置する場合やオンサイトPPAによる再エネ発電設備を導入する場合には経産省の補助金がありますが、バーチャルPPAは対象になりません。

PPAを活用してCO2削減目標を達成しよう

ここまで、バーチャルPPAについて解説してきました。

再エネ発電設備の設置や運営にかかるリスクを負うことなく、環境価値を必要な分だけ長期的に調達できる優れた方法であり、企業がカーボンニュートラルに取り組むうえで大きな武器となります。

ただし、火力発電など化石燃料由来の電気を実際に使用している場合、温対法においてCO2排出量が必ずしもゼロになるとは限らないことに注意が必要です。

脱炭素化のご相談はエナリスへ

エナリスでは、PPAモデルをはじめとして、企業の脱炭素化をサポートするさまざまなサービスをご提供しています。お客さまに最適な方法をご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

Supervisor 監修者
新島 啓司 Keiji NIIJIMA 環境コンサルタント

東京工業大学大学院 総合理工学研究科を修了後、約30年間、環境、再生可能エネルギー、ODAコンサルタント会社に勤務。在職中は自治体の環境施策、環境アセスメント、途上国援助業務の環境分野担当、風力や太陽光発電プロジェクトなど幅広い業務に従事。技術士環境部門(環境保全計画)、建設部門(建設環境)の資格を持つ。また、英語能力(TOEIC満点)を生かし、現在は英語講師としても活躍中。

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